プラスチック障子をおすすめしないワケ

障子

襖や障子は時間の経過とともに日焼けなどで変色し、破れたり剥がれたりしていなくても定期的なメンテナンスが必要になります。特に小さなお子様やペットがいるご家庭ですと、障子は破れたり汚れたりする機会も多く、なるべく破れにくくて汚れに強いものをお探しの方も多いのではと思います。

そのようなニーズに応える商品として「プラスチック障子」を紹介しているサイトやブログも多いですね。もちろん当店でもお客様からのご要望があれば、デメリットを含めた商品説明をしっかりと行い御納得いただいた上で施工いたしますが、積極的にはおすすめしていません。

なぜプラスチック障子をおすすめしないのか、最後まで読んでいただくと、障子選びのポイントを含めてご理解いただけるはずです。

障子紙の種類

障子紙の種類については、以下のページでも紹介していますが、手漉きてすき機械抄ききかいすきかという製法の違いと、こうぞ、レーヨン、ナイロン、マニラ麻、パルプなどの原材料の含有比率で8種類程度に分類できます。

この他に、樹脂シートやプラスチックを紙の繊維でコーティングしたものや、極薄の紙を樹脂シートで挟んだ強化和紙と呼ばれるプラスチック障子もあります。

紙の障子

紙の障子は手漉きと機械抄きで大きく2種類に分かれます。手漉き和紙は高度な技術と高品質な原料を用いた高価なものも多く、ユネスコ無形文化遺産に登録されている石州和紙や本美濃紙、細川紙は、天然繊維である楮のみで漉かれる和紙で、障子紙の最高級品です。実際、張替えにかかるお値段は決してお安いものではありません。ただし、もし破ってしまうリスクがないのであれば、耐久性も高く張替え周期も10年以上と長いので、1年あたりに換算すると意外とお得なのも事実です。

機械抄きの障子紙は洋紙と同様に抄紙機しょうしきという機械で抄いた紙で、厳密に言うと和紙ではありません。しかし、永年に亘る抄紙技術しょうしぎじゅつと原料の改善により、和紙(手漉き障子紙)に近い風合いや強度を持つ紙も出てきました。機械抄きの楮障子紙は手漉きの楮入り障子紙よりも楮の含有率が高く、手漉きに近い風合いもを持ち強度もあるので張替え周期も5年以上と長いです。また、混抄障子紙こんしょうしょうじがみも光沢や強度が楮に似た植物系再生繊維のレーヨン(人絹じんけん)や、化学繊維のナイロン、天然繊維のマニラ麻を長繊維原料として含むことで厚手で風合いの良い紙になっています。

ただ、問題なのはパルプを80%以上含む機械抄きの量産紙(パルプ障子紙)です。ホームセンターや激安店などで安価に流通している障子紙で、一般に薄手で繊維が短く、紫外線による劣化速度も速いので、環境によっては1年も経たないうちに破れやすくなってしまいます。「紙の障子は破れやすい」というイメージは、このパルプ障子紙と金魚すくいのポイが作っているのではないかと私は睨んでいます。(笑)

プラスチックの障子

「プラスチック障子紙」といって紹介されているサイトやブログも多いですが、プラスチックですから紙ではありません。ただ、プラスチック障子の中には、見た目を紙に近づけるために樹脂シートやプラスチックを紙の繊維でコーティングしたものや、逆に極薄の紙を樹脂シートで挟んだものもあり、それらは強化和紙などの名称で売られています。まぁ、原料の一部に紙を含んでいるので、百歩譲って紙と言っても良いとしても、和紙を名乗るのはやり過ぎな気がします。

何で貼るのか

障子紙を障子のさんに貼る方法は以下の3種類が一般的です。

我々表具師は、建具を何十年から百年単位で使い続けることを考え、希釈した澱粉糊でんぷんのりを使います。厳密に言うと、澱粉糊にも、原材料の中に苛性ソーダかせいそーだを入れて混ぜる「冷糊法れいこほう」で大量生産されるものと、澱粉を混ぜながら炊いて作る伝統製法の炊き糊がありますが、一般の障子や襖の張替えであれば、よほどのことがない限り、冷糊法で作られた澱粉糊でも問題はありません。炊き糊は主に表装に使用します。さらに古い掛軸の修復・仕立て直しなどで用いるのは、この炊き糊をさらに5年以上寝かした寒糊かんのりを使うんですよ。

話を戻すと、澱粉糊で貼った障子紙は、剥がす際にも薬剤等は必要なく「水だけできれい」に桟から剥がれます。桟を傷めることがありませんので、建具も長く使えます。ただし、これは我々が使う希釈した澱粉糊だけで、濃過ぎると糊が溶けず、桟からこすり取る必要があったり、そもそも化学糊だと溶剤が必要なものもあり、これらの糊は桟を傷め、建具の寿命を縮めてしまいます。ホームセンターで売られている障子用の糊は濃過ぎるものや化学糊が多いのでご注意ください。

アイロン

我々表具師は全く使いませんが、アイロンワッペンのように、アイロンの熱で樹脂を溶かして桟に貼り付ける加工がされた障子紙がホームセンターなどで売られています。簡単に奇麗に貼れると謳った商品も多いようですが、障子の桟に凹凸があると貼り付き難いですし、貼ってしまうと水では剥がれず、熱を加えて樹脂を溶かすか、溶剤を使って剥がすしかなく、一度使ってしまうと桟に樹脂が残り、桟の寿命を極端に縮めてしまいます。避けられるのであれば避けていただきたい貼り方です。

両面テープ

紙の障子を貼る時に使うことはほとんどありませんが、プラスチック障子を貼る時は一般的に両面テープを使います。

慣れると簡単に貼れるとは思いますが、張替えの時に剥がすのがたいへんです。ドライヤーなどで熱を加えながらゆっくり剥がすのですが、まず、奇麗に剥がれません。特に桟から両面テープを剥がす時に失敗すると、下の写真のように木を起こしてしまいます。

両面テープで貼られたプラスチック障子を剥がすと……(廃棄する障子で実験)

このようにアイロン同様、一度使ってしまうと桟の寿命を極端に縮めてしまいます。プラスチック障子をやめて紙の障子に戻そうとした時に、障子の桟が傷み過ぎていて建具を新調しなくてはいけないというケースもありますのでご注意ください。

プラスチック障子のメリット?

プラスチック障子のメリットと言われるのは以下の4点です。

  1. 丈夫で破れにくい
  2. 水拭きもできて掃除がしやすい
  3. 日焼けの心配もなくいつまでも白い
  4. 気密性が高く冷暖房効率が良くなる

どれも魅力的に見えますが果たして本当にそうでしょうか?

確かに破れにくいですが……

小さなお子様や室内で犬や猫を飼っているご家庭では、紙の障子だとすぐに破られてしまうので、破れにくいというメリットは確かに魅力的だと思います。確かに少しくらい指で突いても、プラスチック障子は破れません。

でも、障子が破れる前に障子の桟を折ってしまっては一大事。実際、強くぶつかった時に、プラスチック障子は無事だったにもかかわらず、障子の桟を折ってしまったと修理を依頼されることも。丈夫過ぎるのも考え物です。

確かに水拭きできるものもありますが……

プラスチック障子の内、表面に紙の繊維でコーティングしたものはそもそも水拭きができませんし、極薄の紙を樹脂シートで挟んだものも端から水が浸入しますので水拭きは避けた方が良いです。その他、紙を全く使っていないプラスチック障子でも、表面はツルっとしている訳ではなく、ザラザラした凹凸加工がしてあるものが多いです。その場合、水拭きをすると、汚れがくぼみに溜まったり、拭きむらが残ったりします。また、プラスチック障子は水に強くても、障子の桟は木なので水に弱く、アクが出たり、シミになったりします。かと言って、水拭きを避けてはたきでパタパタやると、静電気が起きて埃を吸いつけてしまいます。

確かに日焼けはしませんが……

プラスチックなので紫外線には弱いです。

紫外線により劣化が進み、脆くなります。つまり、日当たりの良い場所で使うと、紙ほどは日焼けはしませんが強度は保てず破れやすくなります。

確かに気密性は高いですが……

気密性が高いということは、逆にいうと障子と窓の間に湿気や熱が溜まります。

窓の結露はある程度は仕方ないですが、プラスチック障子側に結露が起きると、プラスチック障子を貼っている糊が溶けて桟から剥がれてしまうこともありますし、カビによって障子の桟や建具、敷居がダメになることもあります。

さらに、熱がこもると、プラスチックが膨張し、貼っている両面テープや糊が溶け、桟から剥がれてしまうこともあります。

紙障子のデメリット?

プラスチック障子をすすめるブログなどでは、紙障子には以下のようなデメリットがあると書かれていることが多いです。

  1. 破れやすい
  2. 気密性が低い

意外と破れません

パルプ障子紙や金魚すくいのポイのせいで紙の障子は破れやすいというイメージですが、和紙は皆さんが考えている以上に丈夫です。特に手漉き和紙は原料の繊維が長く厚手でしっかりと絡まっているので少々のことでは破れません。

そこまで極端ではなくても、機械抄きの混抄障子紙でも、植物系再生繊維や化学繊維の特性を活かして丈夫に抄き上げている紙も多いです。特に、「破れにくい障子紙」としてレーヨン、ナイロンを主原料に抄いた強力障子紙はJIS規格で5倍程度の強度があるものもあります。

本物の紙は呼吸します

気密性が低いことはデメリットでしょうか?

紙の障子には吸湿性があるため、室内に湿気がこもるのを防ぎます。また室内が乾燥すると含んだ水分を放出します。この吸湿と乾燥の繰り返しを「呼吸」と呼んでいます。呼吸により自然な換気と清浄化を行うため、障子がお部屋のホコリやカビ、化学物質を吸着するフィルターの役目も果たします。電気の要らない空気清浄機のような感じですが、これが障子が汚れる原因の一つです。

化学繊維を主原料にした紙は開け閉めによって静電気が起きやすく、ホコリを吸着する力が強いので早く黒くなます。これはデメリットと言えるかもしれません。

まとめ

以上のように、プラスチック障子は桟を傷めない貼り方ができず、また一般的にメリットと言われているものであっても、細かく見るとむしろデメリットになる場合もあることがおわかりいただけたと思います。

プラスチック障子を貼る前に、なぜプラスチック障子を貼ろうとしているのかを考えてみてください。強力障子紙を検討してみてください。破れにくさを求めるだけなら強力障子紙で十分かも知れません。小さなお子様やペットがいないのであれば、手漉きや機械抄きの楮障子紙も丈夫で長持ちします。

ただ、障子の張替えをどこのお店に頼んでも一緒かと言うと、残念ながらそんなことは無いんです。普段、機械抄きのパルプ障子紙や麻入り障子紙しか扱っていないお店だと、手漉き和紙や機械抄き楮障子紙の癖や特性を知らず、せっかくの長所を活かせないこともあります。紙選びとともにお店(表具師)選びも慎重に。

長くなってしまいましたが、プラスチック障子をおすすめできない理由がおわかりいただけましたか?皆さんのお役に立てれば幸いです。

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