表具店と古物商 1 – 古物商許可が必要なビジネス

掛軸 古物商

TXN系列の長寿番組である『開運!なんでも鑑定団』。今年の4月19日で放送開始から27年を迎えるので、一度くらいはご覧になった方も多いと思います。中には、この番組のおかげで、鑑定や骨董品に興味を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

我々表具師が取り扱う仕事の中に、掛軸・巻子・屛風・衝立・和額などの表装、修繕、仕立替えがあります。いわゆる骨董品にあたるものをお客様からお預かりし、それを修理や修復を行ってお客様にお返しするのですが、その際、番組の話題になり、その流れで鑑定を依頼されることもあります。

ただ、鑑定にはかなりの専門知識を要します。当店は表具店であり、我々表具師は表具・表装の専門家ではありますが、美術品鑑定のプロではありません。また、お預かりした掛軸などは、お客様にとっては大切な一点もののお宝です。その重みは真贋を問わず同じはずですから、客観的な実際の価値に左右されることなく、全てを同様に大切に扱うという方針のもと、お客様には鑑定自体をお勧めしないとお話しさせていたでき、基本的にはお断りしています。

また、鑑定の依頼ほどではありませんが、お客様から掛軸などの買い取りを打診されることもあります。ですが、令和3年4月現在、当店は古物商の許可を受けていませんので無償でのお引き取りは可能ですが買い取りはできません。(令和3年6月1日付で兵庫県公安委員会より古物商許可証が交付されました)

「古物」の取引は「古物営業法」によって規制されています。ただ、表現が抽象的で、行政書士や警察署の担当者でも判断が分かれることもあるようで、実際、古物商許可が必要なのか不要なのかの判断に迷うことがありました。そこで、もう迷うのが面倒なので、いっそのこと古物商許可を取ってしまおうと、先日、宝塚警察署の生活安全課に申請書類を提出してきました。その経緯を含め、私と同様にご自分で古物商許可の申請ができるよう、申請書の書き方などを何回かに分けて解説したいと思います。

まずこの記事では、ご自分のビジネスには古物商許可が必要か不要かを迷った時に、判断できるような基準を分かりやすく解説しますので、是非、参考になさってください。

古物商許可が必要か不要かを判断する方法

お客様から預かったものを修理や修復を行ってお客様にお返しする分には、基本的に古物商の許可を受ける必要はありません。ただし、象牙の軸先が付いた掛軸などは、「特別国際種事業の登録」を行っていないとお客様からお預かりすることさえできませんので、当店は事業者登録を行っています。この「特別国際種事業の登録」については別の機会にお話ししますね。

では、どういうときに「古物商許可」が必要なのでしょう?

古物営業法の第三条により、「古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの (古物営業法第二条第二項第一号)」を営もうとする者は、都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の許可を受けなければならないと定められています。

ポイントは、取り扱うものが「古物」か否か、取引方法が「古物営業」に該当するか否か、この2点の両方にあてはまる時に、「古物商許可」が必要になるということです。逆に言うと、どちらか一方でも該当しなければ必要ありません。

それでは、「古物」と「古物営業」について具体的に見て行きましょう。

「古物」とは?

古物営業法の第二条において、「この法律において『古物』とは、一度使用された物品(鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物を含み、大型機械類(船舶、航空機、工作機械その他これらに類する物をいう。)で政令で定めるものを除く。以下同じ。)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。」と定められています。

「古物」に該当するもの

「鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物」に該当するものは、古物営業法施行規則の第二条で13区分に分類されています。この13区分に該当しないものはそもそも「古物」にはなりません。

区分品目
1美術品類書画、彫刻、工芸品等
2衣類和服類、洋服類、その他の衣料品
3時計・宝飾品時計、眼鏡、宝石類、装身具類、貴金属類等
4自動車その部分品を含む
5自動二輪車及び原動機付自転車これらの部分品を含む
6自転車類その部分品を含む
7写真機類写真機、光学器等
8事務機器類レジスター、タイプライター、計算機、謄写機、ワードプロセッサー、ファクシミリ装置、事務用電子計算機等
9機械工具類電機類、工作機械、土木機械、化学機械、工具等
10道具類家具、じゅう器、運動用具、楽器、磁気記録媒体、蓄音機用レコード、磁気的方法又は光学的方法により音、影像又はプログラムを記録した物等
11皮革・ゴム製品類カバン、靴等
12書籍
13金券類商品券、乗車券及び郵便切手並びに古物営業法施行令(平成七年政令第三百二十六号)第一条各号に規定する証票その他の物
古物営業法施行規則 第二条

上記の13区分の内、以下の3点に該当するものが「古物」です。

  • 一度使用された物品
  • 使用されない物品で使用のために取引されたもの
  • これらの物品に幾分の手入れをしたもの

「一度使用された物品」とは、 その物が持つ本来の目的に従って一度でも使用されたもので、自分で使用したものも含みます。いわゆる中古品ですね。

「使用されない物品で使用のために取引されたもの」とは、新品に限らず、使用する目的で購入したものの、一度も使用していない状態のものをいいます。新品または未使用品、新古品と呼ばれるものです。

「これらの物品に幾分の手入れをしたもの」とは、上記の「一度使用された物品」や、「使用されない物品で使用のために取引されたもの」に対して、本来の用途や性質を変化させないまま、補修や修理を行ったものをいいます。

以上が法律上の「古物」に該当します。

「古物」に該当しないもの

これとは逆に、「古物」に該当しないものにはどのようなものが含まれるのでしょうか?

古物営業法の目的は、第一条で「この法律は、盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする」と定められています。そのため、盗難される可能性が低いものや、盗難されても容易に発見することができるものは「古物」に該当しません。また、本質的な変化を加えなければ使用できないものや、使用することにより消費してしまうものも「古物」には該当しません。

具体的には古物営業法施行令の第二条に定められている盗難されても容易に発見できる船舶、航空機、鉄道車両、工作機械などの大型機械類、盗難自体が困難な庭石や石灯籠など、他の製品の原材料になる空き缶類、金属原材料、古新聞など、消費してなくなるお酒や食品など、再利用せずに廃棄される廃品や一般ごみ、電子チケットなど実体のないものが該当します。

このような物品の取扱いには、他の資格が必要なものもありますが、「古物商許可」は必要ありません。意外に思われるかもしれませんが、お客様に処分を依頼され無償で引き取ったものはそもそも盗品ではないと推定されるので古物営業法で守られる古物には当たりません。なので、それを仕立て直して販売する際にも古物商の許可は必要ないんですよ。

「古物営業」とは?

次に、二つ目のポイントである「古物営業」についてです。

先にも述べましたが、「古物営業」は古物営業法の第三条により、「古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの (古物営業法第二条第二項第一号)」と定められています。

古物の「売買」、「交換」、「委託を受けて売買」、「委託を受けて交換」を行う営業というと、ほとんどの取引が該当しそうですが、古物の「売却」、「売却先からの買戻し」などは該当しません。

では、どういった取引が「古物営業」に該当するのか、具体例を挙げて紹介します。

「古物営業」に該当する売買、しない売買

古物の「売買」および「委託を受けての売買」は基本的に「古物営業」に該当します。

例えばリサイクルショップなどで買った古物(一度使用された物品)の転売や、古物を買い取って修理した後に販売する場合や、古物を買い取って部品を売る場合などがそれに該当します。また、古物を預かって売れたら手数料を貰う委託販売を行う場合も「古物営業」に当たります。 

ただし、買う時に転売目的ではなく自分が使用する目的で購入した古物であれば、それを売却しても「古物営業」に該当しません。つまり、ヤフオクやメルカリ、ラクマなどで不用品を売るだけなら古物商許可は不要です。ただ、これはあくまでも「不用品」の売却のケースのみで、古物の転売は当たり前ですが古物営業に該当します。この辺りの線引きが曖昧ですが、家にある不用品を売るなら不要、売るために仕入れたものを売るなら必要と考えてください。

また、国内で購入(仕入れ)した古物を海外に輸出する場合は該当しますが、海外から仕入れたものを国内で販売する場合は該当しません。なぜ海外から仕入れるケースが該当しないのかというと、古物営業法の立法趣旨が国内での盗品等の売買の防止と被害物品の速やかな発見を目的としているので、海外からの輸入品にはその効力が及ばないからです。

同様に、転売目的であっても、一度も市場に出ていない新品を小売店等から購入(仕入れ)して売却(転売)する場合も、盗品等の売買の防止という趣旨からは外れますので「古物営業」には該当しません。

古物を下取りして新品の価格の一部に充てる場合は、古物を有償で買い取ったのと同じですから「古物営業」に該当しますが、先にも述べましたが、相続や譲渡で無償で入手したものや、相手から手数料等を取って引き取ったものを販売する場合は該当しません。これは、そもそも盗品を無償で譲渡するとは考えにくく、無償で譲渡された時点で盗品ではないと推定されるからです。

あと、先にも述べましたが、自分が売ったものを売った相手から買い戻す場合(売却先からの買戻し)は該当しません。

その他の「古物営業」に該当する取引

古物と別の物との交換は、自身が行う場合でも、他人から委託をされて行う場合でも、「古物営業」に該当します。

また、古物を買い取ってレンタルする場合も古物営業許可が必要です。

まとめ

以上のように、古物営業法を読み込むと、取り扱う物品が「古物」に該当し、かつ、取引方法が「古物営業」に該当する場合のみ、「古物営業許可」が必要で、その他の取引を行う場合については特に必要がないことがわかります。

ただし、あくまでも「古物営業許可」に関するお話で、象牙など、取引する品目によっては他の法律により規制され、別の資格や許可が必要なものもありますのでご注意ください。

さて、ご自分のビジネスに「古物商許可」が必要になった時、皆さんはどうしますか?

  1. わからないし難しそうだからあきらめる?
  2. お金を払って行政書士さんに代理申請してもらう?
  3. 時間に余裕があるから自分で挑戦してみる?

私は3番目の「自分で挑戦してみる」をお勧めします。申請のポイントさえ押さえれば、申請書をダウンロードして、住民票のある市区町村の役所と本籍地のある市区町村の役所から必要な書類を取り寄せるだけですので、誰でも簡単に申請できます。

これから申請書の書き方とポイントを何回かに分けて解説しますので、ご参考になさってくださいね。

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