表具師の仕事

表具師

店のサイトにも書いていますので重複する部分もありますが、「表具師ひょうぐし」とは、大雑把に言うと 紙・布・糊を使用して、掛物・巻物・書画帖・屛風・襖などを作るのが仕事の職人 であり、和室をはじめとする「和」の空間を総合的にプロデュースするのが我々表具師の仕事 です。

そんな表具師が皆さんの生活とどのような接点があるのか、この視点でお話ししたいと思います。最後まで読んでいただけると、どのようなお困りごとがあった時に相談をしていただければ良いか、相談先の選定基準も含めてわかるようになりますよ。

表具師・経師とは

私の仕事は「表具師」です。曾祖父の代からの稼業で、子供の頃は祖父のお弟子さんに囲まれて育ちました。お手伝いのレベルで言うとこの仕事に接して40年以上になります。周りにたくさんの表具師さんがいたので気付かなかったのですが、大学に行くようになり自己紹介をすると、表具師を知らない人が多いことに驚かされました。関東では「経師きょうじ」と呼ばれる事も多いのですが、一般には「掛軸屋かけじくや」・「ふすま屋」という方が馴染みがあるのかもしれません。

厳密には、表具師・経師・掛軸屋・ふすま屋では仕事の守備範囲が微妙に違いますが、最近はかなり曖昧になってきています。本来は、掛軸などを作る「裱褙師ひょうほえし」、巻物などを作る「経師」、ふすま屛風びょうぶなどを作る「唐紙師からかみし」の総称が「表具師」で、「掛軸屋」は「裱褙師」の別称、「ふすま屋」は「唐紙師」の中で襖を専門に作る職人の呼称です。

まとめると、先にも引用しましたが、紙・布・のりを使用して、掛物・巻物・書画帖・屛風・襖などを作るのが仕事の職人ですね。

皆さんの生活との接点

では、皆さんの生活の中でどのような場面で活躍するか、具体的に紹介します。

襖の張替え、修繕、新調

家を新築する時やリフォームする時に和室の押し入れや洋間との取り合いの襖を新しく作るのは、大工さんじゃなくて表具師の仕事です。工務店さんや設計士さん経由でお仕事をいただくことも多いですが、施主様から直接ご依頼を受けることもあります。

また、襖が破れたり汚れたり、お部屋の模様替えをしたくなった時も、我々表具師にご相談ください。

もちろん器用な方はホームセンターなどで道具や材料をそろえて、ご自分で張替えに挑戦されるのも良いですが、襖の張替え方法を紹介しているサイトや動画によっては、襖の下地を痛めてしまうものもありますし、売られている道具や材料によっては、プロでも上手く張れない商品もありますのでお気を付けください。特に急な来客で失敗できない時や、DIYをするには日程的に余裕がない場合、そしてDIYに失敗した時は迷わずご相談を。

障子の張替え、修繕、新調

年末の大掃除に合わせてご自分で障子を張替える方も多いとは思いますが、枚数が多かったり、時間的な余裕が無かったり、少し面倒だなと思ったら我々表具師にお手伝いをさせてください。

また、建具や障子紙が特殊な素材の場合など、DIYが難しい時も表具師の出番です。最近のマンションやハウスメーカーの新築物件などでは、アルミ製など木製ではない建具が入っている場合もあり、破れ難い障子紙として樹脂シートやプラスチックを紙の繊維でコーティングしたものや、極薄の紙を樹脂シートで挟む特殊な加工をされたものが貼ってあるところもあります。このような障子だと張替えに手間と時間がかかり、慣れていない方には正直難しいと思います。ちょっとでも不安があれば、遠慮なく我々表具師にご相談ください。

あと、DIYをされる方にアドバイスです。ホームセンターなどでは、手軽に張替えができるとの触れ込みで、両面テープやアイロンで貼る障子紙が売られています。もちろんその商品を否定する訳ではありませんが、テープやアイロンで溶ける樹脂系の糊は紙を貼り付ける組子くみこを痛めてしまい、結果的に障子そのものの寿命を縮めてしまう虞があります。可能であれば水溶性の糊をお使いください。

掛軸の表装、修繕、仕立替え

一時は、和室そのものが無い家も増えましたが、最近はリビングの一部に畳コーナーを設けるなど、和の空間が見直されるようになってきました。それでも床の間のある和室は少なくなり、掛軸をお持ちでないご家庭も多くなっています。

書道や日本画の教室に通われている方には、作品の保存や鑑賞のために裏打ちをしたり掛軸に仕立てたりと、表具・表装は身近に感じられるかもしれませんが、掛軸にできるのは書画作品だけではありません。旅先で気に入ったハンカチや日本手拭いを見つけたら、それで掛軸を作ることも可能です。また、お子さんやペットのお写真も、意外と思われるかもしれませんが、掛軸に仕立てることも可能です。

掛軸は和室の床の間にだけ掛けられるものという訳ではありません。新しい「和の装い」の室内装飾品として、現代の家にも調和した自由な発想の掛軸もご提案させていただきますので、興味のある方はお気軽にご相談ください。

屛風・衝立・和額の表装、修繕、仕立替え

一般のご家庭で屛風びょうぶ衝立ついたてをお持ちの方は掛軸よりもさらに少ないとは思いますが、屛風・衝立の新調・修理・仕立替えは我々表具師の仕事です。特に屛風の本紙が破れたり蝶番ちょうつがいが切れたりした時は、その構造上、かなり高度な修理技術を必要としますので、迷わずに信頼のおける表具師にお任せください。

また、屛風や衝立も、本来の使用方法である間仕切りとしてだけでなく、和風の室内装飾品として、和室以外でも使用できるデザインでお仕立てすることも可能です。古い着物をアレンジしたり、お気に入りの布があればお洒落な屛風に大変身。

和額・パネル額もお作りします。賞状額や写真額も既製のものとは一味違うアレンジをお楽しみいただけます。まさかこんなものまで!?という意外なものも、額に収めれば立派な装飾品に生まれ変わります。興味のある方はお気軽にご相談ください。

和室・洋室の内装

和室を作るのは大工さんです。でも、畳を入れるのは畳屋さん、土壁・聚楽壁じゅらくかべを塗るのは左官屋さかんやさんです。そして我々表具師は、その和室に入る襖や、明かりを取るための障子、床の間に掛ける掛軸、空間を演出する屛風や衝立を作ります。また、左官屋さんが仕上げた土壁・聚楽壁に、汚れ防止と剥落防止を目的として和紙で腰貼りを行うのも表具師の仕事です。最近は聚楽壁の代わりに聚楽風のビニールクロスが増えてきたので、和室の壁装も表具師が担当するケースも多くなってきました。

また、最近は洋室の壁装もビニールクロスが一般的になってきたので、専門の内装業者さん(クロス屋さん)も増えてきましたが、本来は表具師の守備範囲です。実際、表具作業と壁装作業で試験内容は異なりますが、クロス屋さんの技能検定も我々と同じ「表装技能士」です。

このように、設計士さんとの遣り取りの中で、和室をはじめとする「和」の空間を総合的にプロデュースするのが我々表具師の仕事です ので、和室のリフォームや和モダンへのリノベーションをお考えの方は、我々表具師にぜひご相談ください。

その他

近年、神社仏閣を巡り、御朱印ごしゅいんをいただく方が増えていますね。皆さん、いろいろな御朱印帳を持ってお参りされています。あの御朱印帳、昔は私たち表具師が作っていたんですよ。

今は専門の業者さんによって生産されていますが、ベースとなる折本おりほん画帖がじょうを作る技術と同じですから、普段から表装に携わっている表具師さんなら作れます。オーダーメイドですからお好みの裂やお気に入りのデザインで表紙を作れるんです。世界に一つしかない御朱印帳って素敵じゃないですか?

その他にも、皆さんの生活の中で活躍できる場面はまだまだたくさんあります。どんなことでも気軽に相談できる信頼のおける表具師を見つけてください。

表具師の資格 – 技能検定制度とは

表具師にも国家資格(技能検定制度)があります。制度を所管する厚生労働省では以下のように紹介されています。

1. 技能検定とは

技能検定とは、働くうえで身につける、または必要とされる技能の習得レベルを評価する国家検定制度で、機械加工、建築大工やファイナンシャル・プランニングなど全部で130職種(※)の試験があります。試験に合格すると合格証書が交付され、「技能士」と名乗ることができます。

 ※ 都道府県が実施する職種:111職種 / 指定試験機関が実施する職種:19職種

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/ginoukentei/index.html

「和室・洋室の内装」のところで少しだけ紹介しましたが、我々表具師は実技と学科の検定試験に合格すると「表装技能士」を名乗ることができ、制度ができる前に引退した曾祖父を除き、うちの店では二代目の祖父、三代目の父、四代目の私の3人とも1級表装技能士です。

現在、うちの店は父と私の2人で経営をしていますが、かつては複数の職人さんを抱える店で、祖父のお弟子さん、父のお弟子さんにも例外なく検定試験を受けるよう指導してきました。5年以内に辞めてしまった職人さんたちを除き、全員が2級以上の試験に合格しており、独立して活躍されている方もいらっしゃいます。(2級の受験資格を得るための実務経験は現在は2年以上に改正されています)

検定試験に合格し技能士になると技能士番号が与えられ、厚生労働省に登録されます。そしてその番号は、生涯ついて回ります。とはいえ、この検定制度は表具師の技術レベルを図る一つの目安でしかなく、表装技能士でなくても表具店を開業することができます。もちろん皆さんも今から表具師を名乗ることは可能ですし、表具の仕事に携わることも可能です。ただし、職業能力開発促進法第50条により、表装技能士資格を持っていなければ表装技能士を名乗ることはできません。違反者は同法第102条8項により30万円以下の罰金に処されますのでご注意を。

このように、「無くても仕事ができ、あると責任が生じる」という、一見するとあまりメリットの無い資格と思われるかもしれませんが、逆に言うとそんな資格を苦労して取得した表装技能士は、自らの仕事に誇りを持ち、その称号に恥じない仕事をするという責任感を持っていると言っても過言ではありません。表装技能士であるか否かは、皆さんが仕事を依頼するうえで、職人の信頼度を図る大きな基準になると言えます。

表具師の組合

表具を生業にしている表具師や、内装で活躍している壁装事業者の多くは地域や各都道府県単位で組合を作っており、その各都道府県組合は一部の例外を除き全国表具経師内装組合連合会に加盟しています。うちの店の場合は、阪神表具内装協会を通じて兵庫県表具内装組合連合会に加盟し、全国表具経師内装組合連合会の会員になっています。

また、表装技能士として、兵庫県表具内装組合連合会を通じて兵庫県技能士会連合会に加盟し、一般社団法人全国技能士会連合会の会員になっており、さらに父は全技連マイスターに認定されています。

もちろん、同業者組合や地域の商工会などの団体に所属しなくても仕事はできますし、価値観にもよりますが、業界団体に所属することで以下のメリットが得られると私は考えています。

  • 行政機関からの情報が組合経由で逸早く届く
  • 同業者同士の横のつながりができる

特に2番目の「横のつながり」がメリットで、お客さんから受けた仕事に対して、技術的な情報や支援が受けられることが大きいです。会員は自らの専門知識や技術を組合内で共有していますので、技術的に困ったときには気軽に相談できます。場合によっては仕事を引き継いでもらうことも可能です。逆に、他店のお仕事をサポートしたり、そのお店に代わってお仕事をお引き受けすることもあります。これは単純な仕事の下請けとは異なります。業界団体全体でお客様に最善のサービスを提供しようという取り決めがあり、それに賛同した表具師が組合に加盟しています。

このように、業界団体に加盟しているか否かも、皆さんが仕事を依頼するうえで、お店の信頼度を図る一つの目安になると言えるのではないでしょうか。

まとめ

長くなりましたが、まとめると、「表具師」とは、和室をはじめとする「和」の空間を総合的にプロデュースする職人であり、襖、障子、衝立などの調度品を整えたり、掛軸、屛風、和額などの装飾品を作ったり、和室洋室の壁装を行ったりするなど、皆さんの暮らしの様々な場面で活躍する職人です。

表具師には国が定める検定制度があり、表装技能士であることは一定の技術レベルを満たしているという裏付けになります。

またその表具師が同業者組合に加入していることで、他の表具師間で専門知識や技術の共有を行っているので、仕事に対する信頼性がさらに高まります。

これらの基準を参考に信頼のおける表具師をみつけ、お家のかかりつけ医のように活用できれば、皆さんの暮らしがより豊かになるでしょう。

この記事がそのきっかけになれば幸いです。

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